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ワイルドアクアリウムとは?About WILD AQUARIUM

ワイルドアクアリウム

自然を再現するレイアウト

アクアリウムを創造するとき、どんな生き物を飼育し、どんなレイアウトにするのかを考えます。もちろん生き物が健康に過ごせれば、どんなレイアウトでも構わないわけですが、折角なので見た目的にも素敵なレイアウトにしたいものです。 水槽レイアウトにはオランダ式水草レイアウトであるダッチ・アクアリウムや山田洋氏が提唱したアクアート、故天野尚氏が提唱したネイチャー・アクアリウムなど、いわゆる水草レイアウトがとても幻想的で美しい水景を作り出すレイアウトスタイルとして人気があります。美しいこれらのレイアウトですが、庭園やファンタジー、アートの世界で、本当の自然界の水中にこのような場所は存在していません。

ネイチャー・アクアリウム
ネイチャー・アクアリウムは大自然の風景を水槽内に閉じ込めたようなダイナミックさと、綺麗に植栽された水草の美しさが魅力。しかし、実際の自然の川や湖の中にネイチャー・アクアリウムのような水景は存在しません。

水槽のレイアウトに挑戦するときに「自然界に近いレイアウトを再現しよう」と考えたことがある方も多いと思います。実際、1980年代頃までに雑誌や本で紹介されるレイアウトスタイルを見てみると、実際の生息環境に近いものを目指しているのをよく目にします。

美しい水槽の作り方
1980年に出版されたテトラ熱帯魚飼育シリーズ「美しい水槽の作り方」。地域ごとをテーマに作るアクアリウムが複数解説されている。
オーパ!
1978年に出版された開高健の名著「オーパ!」

しかし、熱帯域の水中写真や映像はインターネットが存在していない当時にはなかなか知る手段がなかったようで、開高健がアマゾンを釣り歩く「オーパ!」が数少ないアマゾンの自然を垣間みれる書籍だったそうです。しかし「オーパ!」にも水中の写真が載っている訳ではありません。それに、テレビ番組でも沖縄やモルディブやガラパゴス諸島、グレートバリアリーフなど、海の中の美しい水中映像はよく目にしますが、淡水域の水中映像を目にすることはあまりありません。

そんな状況のなか、80年代までによく創られてきた現地を再現しようと試みた水景もまた、本物の生息地の水中状況とはかけ離れてしまっています。
しかも昔は底床と言えば大磯砂などの砂利。機材もまだまだ進化していないですから、お金もかかるし難易度も高かったようです。

アトラスレイアウトとビオトープアクアリウム

水族館では、魚の生息域で区切った展示方法を行うことが多く、この手法はアトラスレイアウトと呼ばれています。水族館の展示は生息地の情報と共に水生生物を見ながら自然を学ぶ「勉強の場」でもあるので、生息域を限定することが多いわけです。生息地を限定して作り上げるアトラスレイアウトは「ここにはこんな魚達が生息しているのか」と考えながら見れる楽しい水槽です。

Biotope Aquarium Design Contest 2018
Biotope Aquarium Design Contest 2018のベスト作品を紹介した冊子

インターネットが発達した近年、WEBで検索すると魚達の生息地の写真や映像が昔より簡単に見られるようになりました。 生息地の情報が入手できるようになった今、ヨーロッパを始めとした海外では、ピンポイントの地域を忠実に再現するビオトープ・アクアリウム(Biotope Aquarium)が人気を博しています。

ビオトープ・アクアリウムは生息地の状況を元にいかに本物の水景を再現するかということを目指しますから、本格的な方は現地まで足を運んで状況を記録し、それを元にレイアウトに挑戦しています。
このジャンルは自然を再現する上で非常にストイックで「自然界に近いレイアウトを再現しようという試み」の成功例です。 ビオトープ・アクアリウムはレイアウト水槽としての美しさを追い求める部分もあるので、ネイチャー・アクアリウムのレイアウトで使われる構図の作り方を取り入れている部分も多々見られます。結果、見た目としての美しさも保たれ、魅力的なレイアウトが数多く作出されています。 しかし、この構図やバランスを重視したレイアウトや、水槽内に奥行きを演出する手法などを取り入れた結果、実際の自然環境とは少し違ったものも出てきました。

さらに、ビオトープ・アクアリウムを実際に挑戦しようとすると、思うようにアクアリウムを楽しむことができないことも出てきます。
例えば、1500 x 1000 x 500mmの大型水槽に6cm程度のバンデッド・クロマイド(小型シクリッド)が5〜6匹だけが泳いでいるような水槽(2018年のBiotope Aquarium Design Contestではこれが3位)など、かなり余裕のある水槽に少しの生体というのが基本スタイルなので、狭い日本の生活空間ではなかなか楽しむことが難しいのです。

BADC(Biotope Aquarium Design Contest)2018年、3位のビオトープ・アクアリウム。生息地さながらのリアルな水景にインド原産のシクリッド、バンデッド・クロマイド Etroplus canarensis が泳ぐ。自然の水景を再現した素晴らしい水槽だが、魚を飼育する趣味としては少々物足りないものがある。

ワイルドアクアリウムというスタイル

ワイルドアクアリウムでは水槽ごとに大陸や国などの大きい単位で地域を決め、生息地の環境を決めてアクアリウムを創造します。
生息地の状況を調べてそれに近いものを目指すスタイルで、実際の自然に近い水景を楽しむことができます。ワイルドアクアリウムは手軽に魚たちの故郷をなるべく再現し、その行動を楽しむことが目的のアトラス・レイアウトの進化版です。

アクアリウムの水景が美しくても、南米原産のエキノドルスの間を東南アジア原産のベタやラスボラが泳ぐのは違和感があるし、アフリカ原産のアヌビアスの周りを南米原産のアピストグラマが泳ぐのも不自然に感じます。ある程度生息地域を限定したほうがより生息地の状況を想像しながら楽しめるのです。

ワイルドアクアリウムは、構図やバランスを考えたレイアウト重視ではなく自然界の環境を原寸サイズで切り取ったようなアクアリウムを目指します。 パッと見の美しさはネイチャーアクアリウムやビオトープアクアリウムに劣るかもしれませんが、魚たちの行動や発色、なるべく人間の手を感じさせないレイアウトは、自然界の野生を感じることのできる素晴らしいものとなります。

Region x Habitat
ワイルドアクアリウムは「Region(地域)× Habitat(生息環境)」がコンセプト
大陸移動説
大陸移動説。ワイルドアクアリウムはこういうことにまで興味が及びます。

ワイルドアクアリウムは環境×生息環境を考えたアクアリウム。ワイルドアクアリウムに挑戦することで、魚や植物がどのように分布しているのかが見えてきて、系統分類や進化の謎、大陸移動と種の分布の関係など、アカデミックなことにも興味が湧いてくるかも知れません。
更には、移入種などの外来魚問題が如何に残念で悲しい問題なのかを考えることになり、更には世界中で起こっている自然破壊や環境汚染にも考えが及ぶ、壮大なアクアリウムスタイルなのです。

ワイルドアクアリウムの先には大自然に生きる魚たちの生息地があります。地球と自然を考えながら楽しむ、果てしなく飽きることのないワイルドアクアリウム。あなたも挑戦してみませんか?

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